2014年10月16日木曜日

家族割引やグループ割引の要素をもっている

経済学の基礎理論の有効性を信じ、こうして経済学の啓蒙書を書いているという意味では、市場原理主義者の筆者は、待ち時間節約チケ。トに関する限り、おカネで済ませてくれるUSTJ方式のほうが断然好きなのです。しかし、TDLも好きですし、子供を連れて行くとなれば、毎回必死に走り回って、ファストパスをとることになります。取近は慣れてきましたから、あれこれ考えて効率よくファーストパスをとることが楽しくなってきました。TDLやTDSのように、無料で待ち時間節約チケット(ファストパス)が手に入るシステムだと、当然のように、ファストパス発券機の前にも行列ができます。特に人気が高いアトラクションでは、ファストパス発券機に並ぶ行列で30分以ト待だされることもあり、並ぶタイミングも重要で、おまけに発券機はあちこちにありますから、まさに走り回ってとりに行くことになります。

混雑する日には、ポップコーンを買うのにも、レストランで席を確保するのにも、かなり長い行列に並ぶしかなく、ファストパスの取得と合わせて、かなりの時間と労力を要求されます。筆者のように肥満で運動不足の体には、こういったコストがかなり負担になるわけです。じつはこの点も、価格戦略のひとつとして解釈することができます。実際にTDLがそれを意図しているかどうかは、よくわかりません。しかし結論からいえば、「家族やグループに対する割引」の効果をもちます。ファストパスでもポップコーンでもレストランでも、基本的に、行列には家族のうちひとりだけが並べばよく、多人数のグループでも、やはりひとりだけが並べばいい。わが家では、それはわたしの役割と決まっています。毎回、TDLで効率よく遊ぶためのノウハウを蓄積しているのは筆者だけなので、どうしても固定化してしまうのです(どこの家族でも、誰かひとりがこのパターンに陥りやすいのだろうと想像しています)。

そうして並んでいると、複数の家族が一緒に来ているような多人数のグループが、うまく分担してとても効率よく並んでいるのを、ときどきみかけてうらやましく感じます。7人のグループでひとりだけが並べば、単独客が自分ですべてやるのと比べて、ファストパス取得コストは7分の1になります。4人家族のひとりが並んでも、取得コストを4分の1にできます。力丿プルの場合はどうかと思って、何人かの若者にたずねたところ、どちらかひとりが並ぶのがふつうだと口を揃えていました。東京圏以外で質問した結果ですから、わざわざTDLまで行く以上は効率よく遊びたい、という意識が強かったのは当然といえます。力ップルの片方だけが並べば、ファストパス取得コストは2分の1になりますから。つまり、TDL・TDSのファストパスのシステムは、家族割引やグループ割引の要素をもっています。

大型テーマパークに限らず、まとまった人数で来てくれる客を優遇するのは、サービス業としては自然な対応で、実際によくみられます。誰かを誘ってきてくれれば、もっとお得に楽しめますよとアピールして、来客を増やしたいわけです。そう考えると、ファストパスを無料にして、しかし家族やグループ全員のファストパスを、ひとりが並べば取得できるようにしているTDL・TDSのやり方にも、やはり合理性があるのです。理論的には、しばらくは高い人気を維持するはずの新しいアトラクションだけを。期間限定で有料にして、混雑緩和も狙いながら、利益を増やすという価格戦略も十分に有力です。TDLやUSJがそうしないのは、すべてのアトラクションを無料にするという原則と待ち時間節約チケットを、全体的な価格戦略のなかにうまく組み込んでいるから、その枠組みを変えたくないのでしょう。

すでに述べたように、最初に有料の入場料金をとったあとで、アトラクションを無料にするやり方は、本書で定義した無料ビジネスにはふくまれません。しかし、アトラクション無料は人気アトラクションでの混雑を引き起こしますから、無料ビジネスの弊害を考えるうえで、とても参考になります。この視点でTDLとUSJの対照的なやり方を検討してみると、それぞれ巧妙な方法で無料による混雑を逆用していることがわかりました。どちらも全体としての価格戦略がよく練れているというのが、私の感想です。また。無料によって生じる混雑は、企業がうまくくふうすれば。逆用して利益につなげることもできると、USJが教えてくれています。