2015年5月21日木曜日

感染症を宿主と病原体の間の争い

このような関係が成立していても、それぞれの生物はおのれの有機性あるいは同一性を守ろうとする。このことは、感染症を宿主と病原体の間の争いと見る見方が成立する理由でもある。自己の統一あるいは同一性を守ろうとする点においては、私だちと病原体や常在菌との間に区別はない。けれども、同し生物といっても大きさや構造は、ヒトと微生物とで大きな違いがあり、宿主と寄生体として、それぞれの立場も違うことは言うまでもない。そこで、宿主としてのヒトを中心において、生物の特徴を感染症と結び付けながら、宿主と病原体の関係がどのように成り立っているのかを考えてみよう。

生物をどのようなものと考えるかについてはいろい、ろな見方があるが、ここでは生物を、環境としての物質あるいは情報を利用して、自分という一つの実体を存続させている構造と考えてみたい。生物は環境の状態の変化に適応すると同時に、自分の同一性を極力保持しようとすることから、環境と切り離されて存在することはないと言える。生物は、環境に囲まれた状態で、自分を維持・保存するために必要なものを取り込み、不要なものや有害なものを排出し排除する。したがって入り口と出口の二つが必要となり、ものの流れが出現してくる。このように生物の存在は流れによって保たれているが、この流れによって支えられて不変でいられる状態を動的平衡ともいう。生物の身体の中には、いろいろなものの流れを可能とする仕組みがある。