2015年11月17日火曜日

不良債権の重圧

こうした不良債権額の推定は、場合によっては控えめ過ぎるとも考えられる。エコノミスト紙が、九三年二月九日号で「日銀考査で叱責された富士銀行」と題するレポートを掲載したこともあり、公表されている不良債権の規模についての金融市場の疑念を強めることになった。同誌によると、日銀の考査資料をペースとすれば、九二年一ー月時点での富士銀行の要注意与信額(これがそのまま不良債権を意味するわけではないとの旨が同誌に付されている)は五兆四五〇〇億円であった。九三年三月期決算での同行の開示不良債権が一兆一四○○億円であったことと比較すると、なんと四・八倍もの規模であった。いずれにせよ、銀行が直面している不良債権の規模は、金融システムの安定性にとっては重大な脅威である、とのシグナルは明確である。

バブル崩壊の後遺症ともいうべき巨額な不良債権の発生は、銀行の経営環境に重大な影響を及ぼすことになった。銀行収益は未曾有の金融緩和下で減益傾向をみせているし、不良債権問題への対応は銀行の体力を著しく消耗させている。このなかで格付けの相次ぐ低下が示すように、銀行に対する信頼性そのものに変化、が感じられるくらいである。まさに、金融システムの安定性が不良債権の重圧によって軋みを立てだしたのである。

銀行の収益に対する影響は相当なスケールになっている。バブル崩壊後における都銀の収益状況をみると、不良債権の重圧がすさまじい影響を及ぼしていることが明確にみてとれる。他の業態の金融機関との比較において、都銀が最強であるとすれば、金融機関全体の収益状況の悪化は、この都銀の動きから十分に類推しうるであろう。

日本銀行は九〇年代に入って、金融システムの思いもよらなかった動揺に対処するためもあり、金融緩和策を積極化させた。金利は公定歩合でみると、九三年には明治以来の最低水準を更新するまでに引き下げられている。通常、金融緩和期には銀行にとっては調達金利の低下が貸出金利のそれを上回るため利ザヤが改善し、収益の増加に寄与する。実際、銀行にとっての本業の利益を示す業務純益は、都銀をとれば九〇年度の一・四六兆円に対し九二年度には二・五二兆円へと、わずか二年で一兆円強もの急拡大をみた。だが経常利益は逆に九〇年度の一・六六兆円をピークに、九二年度には〇・九六兆円に縮小し、続く九三年度には〇・五六兆円にまで激減している。

これは不良債権の償却のために貸倒引当金を大幅に積み増したことが基本的背景にある。だが、九三年度から本業の利益である業務純益の減少が始まったことは特筆に値する。記録的金融緩和下での業務純益の縮小は、通常の金融緩和策ではもはや銀行収益の改善も見込めないことを意味している。このことは、不良債権にかかおる潜在的損失が増大するなかで、銀行が金利減免措置をとることを余儀なくされ、結果的に金利未収分か急増していることも無視しえないものとなっている。