2014年6月26日木曜日

毒を垂れ流すテレビ

今年は七十九歳になる。私の年配の者があの太平洋戦争で、最も多く戦死したのだという。戦死した友人たちは、テレビを知らない。ビデオもファックスも、パソコンも、自動ドアもケイタイも知らない。インスタントラーメンなどというものも知らない。戦前にはなかったものが、いろいろ、挙げきれないほどある。時計は戦前もあったが、戦前の時計はゼンマイ仕掛けであった。飛行機もあるにはあったが、一般の人々が利用する空路などというものはなかった。

人工衛星が打ち上げられ、人工授精で人間が作られる。私のような旧式の人間は、とてもついて行けない。私は、パソコンもワープロもだめ、ファックスだけは利用しているが、ファックスどまりである。私の部屋にあるもので、戦前にはなかったものといえば、ファックスのほかには、テレビと小さな電気冷蔵庫と瞬間ガス湯沸し器だけだが、それでも私は、戦死しなかったおかげでこういうもののある生活をしているのだな、と思う。今、テレビのない世帯というのは、この国にどれぐらいあるのだろうか。

私かテレビで見るのは、ニュースとスポーツとドキュメントぐらいのものだ。他の番組は見ない。ワイドショーなどというのはもちろん、ドラマも見る気になれない。私は、テレビというのは、毒を垂れ流しているのではないかと思っている。そう思いながら多少は見ているわけで、テレビを知らずに死んだ友人たちに、見させてやりたかったな、とも思っているのだから、矛盾している。私の年配の者は、戦争で死なずに生き残った者も、今や病死する者が多いし、なおも生き残っている者も老化をかこっている。それでも、古希を過ぎて外国語を勉強している者がおり、ボランティアをしている者もいる。そうかと思うと、病院通いとテレビを見ることしかすることがないと言って過ごしている者もいる。

毎日、テレビばかり見ているという友人にきいてみた。「面白い番組があるかね」すると、「ない。つまらんものばかりだ。見ていると腹が立つものばかりだ」と言う。それなら、見なきやいいじゃないか、と思うが、見るのである。私は先般「週刊文春」が、NHKの「やんちゃくれ」という連続ドラマをこきおろしていたのを思い出して。きいてみた。「『やんちゃくれ』というの、見ているかね」「見ているよ、ひどいドラマだ」しかし、このドラマ、これまでの連続ドラマに較べると視聴率が低いが、それでも二千万人の人が見ているのだそうである。ひどいドラマだと言いながら見ている私の友人は、その二千万人の中の一人である。いずれにせよ、二千万人。テレビとは大したものだ。