2014年7月11日金曜日

国際的なクラウディングーアウト

ここからアメリカは日本に対する要求として内需拡大を主張する。すなわち、政府の財政赤字を拡大して民間の貯蓄を吸収すべきだ、とする。これは、公共投資を拡大して総投資をふやせ、ということである。日米構造協議の結果、一〇年間に四三〇兆円の公共事業を行うこととしたのもこの考え方によっていた。

ただ、この貯蓄投資。バランス論だけで経常収支問題を議論するのはやや粗雑すぎる。すなわち、このバランスは結果としての均衡式にすぎないのであり、このバランス式と国際的な資本移動を同時に考えねばならない。国内の投資の過小あるいは貯蓄の過大は国際的な資本取引の結果でありうる。すなわち、貯蓄投資。バランスは因果関係を示すものではなく、結果の関係であることに留意する必要がある。実際、図のように、アメリカの財政赤字と経常収支赤字の間、また、日本の財政赤字と経常収支黒字の間に強い相関があるようには見えない。

むしろ因果関係としては、通常考えられているのと逆のものであるかもしれない。もし、国際的な資本取引が完全に自由であるとすると、貯蓄投資バランスは資本取引の結果生まれている可能性もある。たとえば一九八〇年代以降の日本の貯蓄投資。バランスについて、次のような見方もできる。アメリカで財政赤字が拡大すると金利が上昇し、これによって日本からアメリカへ資金が流れ、このために日本国内でも金利が上昇して投資が減退し結果として投資が過小になることも起こる。

このような、国際的なクラウディングーアウト(追出し効果)もありうる。日本の投資不足が対外不均衡の原因であるというより、アメリカの国内の貯蓄過小が対外不均衡を生み、これと整合的になるために日本で投資が過小になっているという見方もできる。いずれにせよ、アメリカ国内で国内総投資が国内総貯蓄を大幅に超えたことが、わが国などからの資本流入を招き、これが経常収支赤字となったのである。今日のアメリカの膨大な経常収支赤字、日本の経常収支黒字の原因はまさにレーガンの政策そのものにあった。

このような議論は「小宮理論」として知られる(小宮隆太郎著『貿易黒字・赤字の経済学』東洋経済新報社、一九九四年を参照)。これは元東京大学教授で青山学院大学教授の小宮隆太郎氏が経常収支黒字は貯蓄と投資の差額なので、これを減らせとか増やせというような政策の問題ではないことを主張したものである。しかし、これは小宮理論というようなおおげさなものではなく、経済学者のごく常識にすぎない。